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2008.07.17 (Thu)

K&C 番外編 Barbara【後編】

事件が起こったのはそれから二日後だった。

マリアが滞在中であるアレクの城に、意識を失った少女が担ぎ込まれてきたのだ。
執事のハンスから知らせを受けたアレクとマリアはあわてて駆け付けた。
深夜も寝静まった頃である。
領地を見回っていた森番の男が偶然通りかかって、敷地内にぐったりと倒れている少女を発見したのだ。
城内に保護された少女は体が冷え切っていたので、とりあえず毛布で幾重にもくるんで暖房を強くした客室の寝台に寝かせるようハンスが指示を出した。
その一方で、主人に事の次第を伝えることと、主治医に往診の連絡をとった。
自室で休んでいたアレクはハンスからの連絡で、10歳くらいの少女という単語からもしやと思い、マリアにも知らせるように言いつけた。
アレクが思った通り、客室に寝かされていたのは、青白い顔で眠りについていたバルバラの姿であった。
アレクに少し遅れて駆け付けたマリアも、心配げな様子で彼女を見守っている。
深夜にもかかわらず車を飛ばして往診してくれた主治医は、まだ寒い雪道を長時間彷徨ったことでの疲労と体温の低下を心配して治療を施した。
次の日目を覚ましたバルバラは、まだ熱はあったものの、主治医が処置してくれたので幸い大事には至らなかった。
意識を取り戻したバルバラの枕元でマリアはやさしく問いかけた。
「お転婆さん、苦しくないかい?のどが渇いただろう、まってな。いま用意してやるからね」
バルバラは一瞬ばつが悪そうな表情を浮かべて布団を引き寄せたが、マリアが怒ってないと知ると大人しく介抱してくれるのにまかせた。
己のどっちつかずの態度が少女の心を惑わせたのだ。
マリアは自分の馬鹿さ加減を心の底から呪った。
「ホームには連絡しといたから安心してお休み」
「…怒ってないの?どうして私がここに来たか聞かないの?」
熱のためかうるんだ瞳でバルバラは堪りかねたように尋ねた。
「あんたが言いたいなら聞くよ」
マリアの言葉使いはぶっきらぼうだが、慈愛に満ちた瞳はこの上もなくやさしい。
「…劇の後、私を引き取りたいってご夫婦がみえられたの」
「バルバラはその夫婦が嫌いだったのかい?」
「ううん、とっても優しそうなおじいさんとおばあさん。シスターはそのご夫婦が資産家で、ゆくゆくは財産も私のものになるからとってもいいお話ですって」
「じゃあどうして逃げ出したんだい?」
「だって、あんなにおじいさんとおばあさんじゃ、私またすぐに一人になっちゃう。もうおいてかれるのはいやなんだもんっ」
そう言った後、バルバラは頭から布団をかぶって声を殺して泣き出した。
布地を通してバルバラが小刻みに震えているのがわかった。
(この子はこの細い肩に背負いきれないほどの悲しみを抱えている)
そう思ったら今まで躊躇していた自分が恥ずかしい。
自然と一歩を踏み出す勇気が出た。
マリアは震えている布越しごと両のかいなに包み込んだ。
「なんであたしを選んだんだい?」
「……丈夫そうだったから?」
包み込んだ腕が締め付けに変わったのは正直な心の表れだったかもしれない。

バルバラは三歳の頃、母に連れられホームに預けられた。
母は必ず迎えに来るからと言い残して、いまだに彼女を迎えに来ていなかった。
バルバラ・リピンスキー、容姿と名前から彼女がポーランド系であることはわかるが、彼女がオーストリアのホームに預けられた経緯は不明だった。
バルバラは言いようもない不安とともに思い出す。
いまでは顔も思い出せない母だったが、繋いだ手がやけに頼りなく、心もとなかったのを覚えている。
子供心にもこの手を放してはいけないと必死に握りしめていた気がする。
その願いも虚しく、母はバルバラをホームに預けてどこかに行ってしまった。
『すぐに迎えに来るからね』
うそつき。
あんたなんか待たない。
あんたなんかいらない。
私は私のムッターを見つけるんだから。
あんたとは似ても似つかない、やさしくって強いムッターを見つけるんだ。

マリアは体調が回復してホームに戻ったバルバラを、助手のアレクの反対を押し切り、養子縁組の手続きをとった。
その後マリアがフィギュアスケートのコーチ兼振り付け師として世界で活躍していることを知ったバルバラは、当然のようにマリアにくっついて各地を回ったが、アメリカを訪れた際、バルバラの義理の姉にあたるヨウコとこの時初めて出会ったのだった。
その直後バルバラは爆弾発言をした。
「私フィギュアの選手にはならないわ。スケートは趣味で楽しみたいだけ。将来は女優になりたいの。…マリアはスケートをしない私はいらないの?」
何を思ってバルバラがそう言ったのか。言わせてしまったのか。
マリアはバルバラを追い詰めてしまった責任を感じた。
ヨウコとの出会いで感じた不安を取り除いてやりたかった。
だからマリアは選手たちの指導で各地を回る生活に終止符を打つことを決めたのだった。
もしこのままバルバラが本格的にスケートを続けてたら、世間に第二のヨウコと呼ばれることは確実だった。
自己主張の強いバルバラが耐えられるはずもない。
そして何よりもバルバラは母が欲しかった。
だから好きだったはずのフィギュアもあきらめて、100%母親としてのマリアを手に入れる道を選んだのだ。
後日マリアは、自分はあの時バルバラに母としての資格を試されたのだと、助手のアレクに苦笑してみせた。


「ムッター」
上目使いでマリアを見上げるバルバラ。
バルバラは甘えたい時だけマリアをお母さんと呼ぶ。
ザルツブルグの自宅。
さっきまでふくれっ面をしてたのに、すぐに忘れて甘えてくるのもこの子の可愛いところだ。
マリアは親の欲目でそう思った。
「あの子またウチに来る?」
「ああ、たぶんね」
マリアは笑って答えた。
うちのお姫様は恋をしているらしい。
(まあ、その相手が八つも年上だってことは、まだ言わない方がいいだろうね…)
「日本語って覚えるの難しいの?」
「さあ、どうだろうね」
「ショータ・タカモ…だっけ?う〜ん、ちょっと違う気がするんだけど…」
「そんなに興味があるんだったら、習ってみるかい?」
「ほんとっ?ムッター大好き〜!!ぜったいよ」

バルバラの満ち足りた無邪気な笑顔をみて、マリアは取り越し苦労をやめることにした。
あたしが手塩にかけてかわいがってんだから、これで不幸せだなんて言ったら、お尻をぶってやるさ!


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続きを読むであとがきです。


あとがき

やっちまいました〜><
タイトルのアルファベット表記、間違えちゃってましたね〜^^;
読んで下さった方には、こいつ大ボケじゃんって思われたことでしょう…
いや、記事にあげる頃には半分寝てたんで…とか苦しい言い訳;;
ええ思われた通り、私は普段も天然の大ボケですから。

と、いけない、自分のボケ話で終わるとこでした。
そう、後編のあとがきですよ。
バルバラとマリアのお話は、本編で語れなかった部分をいつか補わなくては…と思ってたんです。
だから本編と重複した個所もあるんですよね。
ついでに助手時代のアレクもちょっとだけ登場です^^この部分は楽しかった♪
話の内容が決まってるせいか、ブランクがありすぎたせいか、今回かなり苦しみ悶えました。
補いきれなかった部分もちらほらとありました><
ちなみにバルバラの英名はバーバラです。極一般的な名前なんです。

ここまで読んで下さった方には、本当にどうもありがとうございました。
もうっ、強制的にお友達ですよっw

えーと、次回の小説の更新ですか?
たぶん今度もまた絵に逃避しながら書いてくと思います^^;
まだちょっとだけしか進んでなくてですね…
なるべく間があかないうちに更新したいと思います。


テーマ : 自作連載小説 - ジャンル : 小説・文学

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Comment

お疲れ様でした!
う〜ん、じっくりと読ませて頂きましたよ。
丁度良いテンポでとっても上手な文章でした♪
私もmomokazuraさんに負けないよう小説書きに
磨きをかけていかないと!!

応援ぽちぽちぽち♪
要人(かなめびと) |  2008.07.17(Thu)  |  URL |  【コメント編集】

よみま〜〜〜したwww ちょっと真剣によんじゃったよ^^
忙しくて過去小説まだちゃんと読んでないので、設定とか
キャラとかよく解りませんでしたが、不思議と楽しかったww

思ったんですが台詞に行き着くまでの情景やら心情やら行動やら
の部分の文章が・・・すこぶる上手ですねwwww
読みやすいし、飽きさせないし、言い回しとかが何とも良いです
ね^^ 小説なんて書けない人間なので、こんなこと言うのは
なんとも滑稽な話かと思いますが、リアルに良いと思いましたww
紅 徹司 |  2008.07.17(Thu)  |  URL |  【コメント編集】

>要人(かなめびと)さま

ありがとうございます!
読んで下さってとってもうれしいですww
丁度良いテンポとか、上手な文章なんて言われたら
もう、舞い上がっちゃいますよ〜///
ホントいうと小説の書き方なんてよくわかりません(爆)
今まで読んできた本と、漫画の知識だけで書いてます笑
読んで下さった方の感想が気になってたもので、
要人さんに褒めてもらえて、とてもうれしかったですww

応援ぽちもいつもありがとうございますっ!!!




>紅 徹司さま

読んでくれたんですね〜ww感涙…
どうもありがとうございますっ!!!
なんだかスミマセン^^;でも、とてもうれしかったです♪
そして少しでも楽しんで頂けたなら何よりです^^

文章上手ですか〜///こんなに褒め殺しされちゃって
どう返していいかわかりません^^;
私なんて文章初心者の素人ですから自己満足だけです。
滑稽なんてとんでもない、リアルに嬉し過ぎてヤバいです〜><
本当にどうもありがとうございましたww
momokazura |  2008.07.18(Fri)  |  URL |  【コメント編集】

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