2008.02.15 (Fri)
家族の食卓 ファミリー番外編
「おれと一緒になる?」
彼方の方を向きながら、頬杖ついて何の気なしに洩らした一言が、その場の空気を一変させた。
久しぶりに休暇が取れて、アンダーソン家に戻ってきたクリスを囲み、牧童達も招いてのディナーの席での一言だった。
ひとしきり続いたバカ話が途切れ、話の継穂に洩らしたそれは、あいにくこの場には相応しくなかったようだ。
給仕をしていたトーニャが、思わず皿を落っことしそうになり、あわてて引っ掴んだが、ご自慢のスープはテーブルやらに飛び散ってしまった。
親父を含めた牧童達一同は、おれの洩らした爆弾発言に、クリスの方を凝視し固唾を呑んで見守っている。
おれが誰に向かって言ったことなのかってことは、なるほど、周知の事実ってワケだ。
けして触れてはいけない、気になる恋の行末だったことがこれではっきりした。
みんなの痛いほどの視線を受けながら、当のご本人はと言うと、褐色の目をこれ以上はないほど見開いて、スプーンをスープ皿に落っことしたまま、テーブルクロスを両手で握り締めて、おれを見つめていた。
「……………うん」
衝撃が甚大だったようで、瞬きも忘れたように瞳孔が開きっぱなしのまま、奴はおれのプロポーズを受け入れた。
その瞬間、アンダーソン家のダイニングルームは、コングラチュレーションの嵐に包まれた。
牧童達は雄叫びを上げ、酒を要求してディナーの席は一気に宴会場と化してしまった。
親父はひとしきりおれを抱きしめて頭を手荒く掻き回した後、クリスの方に向かって行くと同じことをやってたが、奴は呆けたようにされるがままだった。
彼方の方を向きながら、頬杖ついて何の気なしに洩らした一言が、その場の空気を一変させた。
久しぶりに休暇が取れて、アンダーソン家に戻ってきたクリスを囲み、牧童達も招いてのディナーの席での一言だった。
ひとしきり続いたバカ話が途切れ、話の継穂に洩らしたそれは、あいにくこの場には相応しくなかったようだ。
給仕をしていたトーニャが、思わず皿を落っことしそうになり、あわてて引っ掴んだが、ご自慢のスープはテーブルやらに飛び散ってしまった。
親父を含めた牧童達一同は、おれの洩らした爆弾発言に、クリスの方を凝視し固唾を呑んで見守っている。
おれが誰に向かって言ったことなのかってことは、なるほど、周知の事実ってワケだ。
けして触れてはいけない、気になる恋の行末だったことがこれではっきりした。
みんなの痛いほどの視線を受けながら、当のご本人はと言うと、褐色の目をこれ以上はないほど見開いて、スプーンをスープ皿に落っことしたまま、テーブルクロスを両手で握り締めて、おれを見つめていた。
「……………うん」
衝撃が甚大だったようで、瞬きも忘れたように瞳孔が開きっぱなしのまま、奴はおれのプロポーズを受け入れた。
その瞬間、アンダーソン家のダイニングルームは、コングラチュレーションの嵐に包まれた。
牧童達は雄叫びを上げ、酒を要求してディナーの席は一気に宴会場と化してしまった。
親父はひとしきりおれを抱きしめて頭を手荒く掻き回した後、クリスの方に向かって行くと同じことをやってたが、奴は呆けたようにされるがままだった。
2008.02.17 (Sun)
バロック ファミリー番外編
ぼくという人間が、人格的に多少歪んでいたとしても仕方がないことだと思う。
だって人間の嫌な部分を知りすぎてしまったのだもの。
学校に通えなくなって何ヶ月経った頃だろう。
パパに殴られて、酒を買いに夜遅く表通りの酒屋に走ったが、あいにく酒屋の店員に追い返された。
そりゃあ、そうだろう。IDカードを提示するまでもない子供なんだから…
帰りたくない足を引きずって、それでも家に帰るしかなかった。
治安の良くない地区の裏町の入り組んだ路地。
売人やホームレスやギャング達が今日もたむろしている。
ここは横道にそれて戻れなくなってしまった人々の吹き溜まりだ。
一歩裏通りに入れば、閑散と寂びれた通りになり、得体の知れない誰だかの吐奢物やらも至る所に吐き捨てられ、アスファルトの舗装がところどころ捲れ上がって無残な姿のまま放置されている。
路地を抜けたところに、低所得者達が住む、およそ廃屋同然のアパートが何軒か立ち並んでいる。
その一つの棟がぼくの住んでるアパートで、たかが知れてるはずの家賃も、ここ数ヶ月溜めこんでるから、いつ追い出されるかはわかったものではない。
赤錆だらけで古びて軋むアパートの鉄階段を登って、買えなかった酒の言い訳を考えたが、子供だから売ってくれなかったと言ったところで、パパは許してくれないだろう。
ため息をついて、手垢で汚れたドアノブを開けると、汚れた衣服や食べ残しの残がい、酒瓶の散乱した見慣れたいつもの光景がそこにある。
まったく不衛生な部屋だ。
淀んだ空気が部屋中を満たしていた。
人間の体臭、酒やタバコや腐った食物やらが混ざり合った、吐き気を催すほどの饐えた臭気が鼻を刺す。
部屋の空気を入れ替えようと窓を開けようとして、注意深く散乱したものをよけたつもりが、足の下でパリンと何かが砕ける音がした。
足をよけると、割れた注射器が現れる。
うんざりした。
最近パパは、得体の知れない人相の悪い男達と付き合い出すようになっていた。
奴らが来るとぼくはフィービーを連れてママの寝室に避難する。
一度からまれて、そのうちの一人にあやうくレイプされそうになったことがあるからだ。
パパは止めようともしなかった…ただ、宙を見据えて夢うつつの状態だった。
しかし、何かが違っていた。
この違和感の正体は…
静か過ぎるんだ。
パパはどこに居るのだろう。
いつも泣いてるフィービーの泣き声がしない。
パパの怒鳴り声も聞こえない。
だって人間の嫌な部分を知りすぎてしまったのだもの。
学校に通えなくなって何ヶ月経った頃だろう。
パパに殴られて、酒を買いに夜遅く表通りの酒屋に走ったが、あいにく酒屋の店員に追い返された。
そりゃあ、そうだろう。IDカードを提示するまでもない子供なんだから…
帰りたくない足を引きずって、それでも家に帰るしかなかった。
治安の良くない地区の裏町の入り組んだ路地。
売人やホームレスやギャング達が今日もたむろしている。
ここは横道にそれて戻れなくなってしまった人々の吹き溜まりだ。
一歩裏通りに入れば、閑散と寂びれた通りになり、得体の知れない誰だかの吐奢物やらも至る所に吐き捨てられ、アスファルトの舗装がところどころ捲れ上がって無残な姿のまま放置されている。
路地を抜けたところに、低所得者達が住む、およそ廃屋同然のアパートが何軒か立ち並んでいる。
その一つの棟がぼくの住んでるアパートで、たかが知れてるはずの家賃も、ここ数ヶ月溜めこんでるから、いつ追い出されるかはわかったものではない。
赤錆だらけで古びて軋むアパートの鉄階段を登って、買えなかった酒の言い訳を考えたが、子供だから売ってくれなかったと言ったところで、パパは許してくれないだろう。
ため息をついて、手垢で汚れたドアノブを開けると、汚れた衣服や食べ残しの残がい、酒瓶の散乱した見慣れたいつもの光景がそこにある。
まったく不衛生な部屋だ。
淀んだ空気が部屋中を満たしていた。
人間の体臭、酒やタバコや腐った食物やらが混ざり合った、吐き気を催すほどの饐えた臭気が鼻を刺す。
部屋の空気を入れ替えようと窓を開けようとして、注意深く散乱したものをよけたつもりが、足の下でパリンと何かが砕ける音がした。
足をよけると、割れた注射器が現れる。
うんざりした。
最近パパは、得体の知れない人相の悪い男達と付き合い出すようになっていた。
奴らが来るとぼくはフィービーを連れてママの寝室に避難する。
一度からまれて、そのうちの一人にあやうくレイプされそうになったことがあるからだ。
パパは止めようともしなかった…ただ、宙を見据えて夢うつつの状態だった。
しかし、何かが違っていた。
この違和感の正体は…
静か過ぎるんだ。
パパはどこに居るのだろう。
いつも泣いてるフィービーの泣き声がしない。
パパの怒鳴り声も聞こえない。
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